鷹と渡り鳥 〜たか と わたりどり〜  

 寒い冬をこすために南へとわたる鳥のむれから、一羽のむすめがはぐれてしまいました。飛ぶのがおそいわけでも、よそみをしていたわけでもないのにと、むすめは仲間を探しましたが、けっきょくは追い付けないまま疲れて地上へと降りました。
 むすめが降り立ったのは青岩の泉でした。
 そこへ高い山の上に暮らすタカが舞い降りてきました。獲物えものに見えた鳥のむすめを狩るためです。
 しかし、青岩に降り立ったタカは、ふときまぐれにむすめに話しかけました。
「何故おまえのようなものがここに居る? おまえたちはもっと南へ行ったのではないのか?」
「そう。そうです。でも私ははぐれてしまった。わたしは"わたる"のは初めてで、追いかけようにもどこへ向かったらいいのかが分からないのです」
「ここで冬を越すのか? この泉には生き物は住まない。飢えて死ぬぞ」
「…そんな!」
「だからそのまえに俺が食ってやる。俺の血肉になって生きろ」
「…そんな!!!」
 ――けれどそんなことにはならなくて。
 おそいかかろうとしたタカでしたが、むすめが水のなかに逃げるので取り逃がしてしまいました。
 タカが何度そのツメを向けても、むすめはするりするりと逃げるのです。
「まいった、俺の負けだ!」
 それ以来、タカはむすめの世話を焼いてくれるようになりました。
 いつしかむすめは、そんなタカに恋こがれるようになっていました。娘は日ごと思います。
「ああ。私も水をはなれて、彼と同じ高みで生きるちからがあったなら…!」

 ――ほどなくむすめは、水にうつるじぶんの姿がちがうのに気がつきました。およぐのがとてもむずかしくなったのです。
 その日、飛びさるタカを追って青岩の泉から舞い上がったのは、おなじタカのむすめでした。

 春。
 高い山の上のタカの巣では、ひよひよ と かわいらしい声がひびいたのでした。












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