留湖の主の物語
   〜 とめこ の ぬし の ものがたり 〜

 ある、たかいたかーい山から、ながいながーい川が、ふもとに向かって流れ出ていました。
 けれど、その川は海にはとどかず、人知れず行き止まり、湖になっていました。
 その湖には、大きなワニのようなぬしが住んでいました。
 普段はやさしい主ですが、おなかがすくといらいらして、とても凶暴きょうぼうになりました。

 ある日のことです。
 どこからか、二本足で走るおおきなトカゲが逃げてきました。
 トカゲは主に言いました。
密猟者みつりょうしゃに追われてるんだ! 助けておくれ!!」
 腹ペコだった主は、
「オマエのしっぽをくれたら助けてやろう」
 と、トカゲに言いました。
 トカゲは、
「それで命が助かるならば!」
 と、こころよく主にしっぽを差し出しました。
 主も機嫌きげんよく、たちまちがばちょとトカゲのしっぽを食べはじめました。

 そこに、ちょうど密猟者たちが追いついてきて、その光景を目にしました。
 密猟者たちには、追いかけてきたトカゲが、ワニにおそわれてしっぽを食べられて、弱っているようにみえました。
「今がチャンスだ!!」
 と、トカゲをつかまえようととびかかりました。

 が。

 主は、トカゲとの約束を守り、そのうえ自分がおなかいっぱいになるために、トカゲにとびつくすんぜんの密猟者たちもがばちょと食べてしまいましたとさ。

 あーあ。

「ありがとう、たすかったよ!」
 トカゲはうれしそうに主に言いました。そして、
「しっぽはまた生えるから気にしないで♪」
 と、おなかがいっぱいになって満足げな主に笑顔で言って、川の上流へ帰って行きましたとさ。

 主さまの、ある日の出来事でした。







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