緋色の涙 〜 ひいろ の なみだ 〜

 それは昔、イニスグラッドという国の王家に伝わっていた、『緋色の涙』と呼ばれる宝石です。
 イニスグラッドは戦の絶えない国でした。
 そのため宝石は、『火色の涙』とも呼ばれ、戦を呼ぶ石とも言われていました。

 あるときは隣国を攻め、あるときは攻め返され、長い間繰り返された戦の末、とうとう王国は滅び去ってしまいました。

 その日以来、『緋色の涙』も姿を消しました。誰も行方を知りません。
 どこかで大きな戦が起こるたび、人々は口をそろえて言います。

「ああ、緋色の涙がやってきた。火を連れてきた。涙を連れてきた。
 ああ、緋色の涙よ。おまえはいつまで火を見たいのだ? どれほどの涙が欲しいのだ?」

 『緋色の涙』は今でも、どこかでひそやかに、戦を起こすべく狙っているのでしょうか――?









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