来雷頼雨 〜らいらいらいう〜
あるところに、不作の続く山間の村がありました。もう何年も日照りが続いて、川は干上がり、山の木は枯れ、作物も出来ず、村人達は生きるか死ぬかの毎日を送り続けていました。
そんな村にある日、旅人がやって来ました。
「どうかわたくしに一夜の宿と、一杯の飯をいただけないでしょうか?」
旅に疲れたその人は言いました。
村人達は困りました。
なにしろ、自分達が食べるのもやっとという生活。どこの誰だか分からない旅人にくれてやるものなど、芋のつる一本だってありませんでした。
けれども村人達は、旅人をあたたかく迎え入れることにしたのです。
「固い床ではありますが、どうぞこちらでお休みください」
一人の老翁が、部屋を貸しました。
「不味いものしか出せなくて申し訳ないです」
村の女達は、自分の家からほんの少しずつ、旅人のために食べ物を持ち寄りました。削り取った土壁、鍋にこびりついた黒焦げの米、虫食いのどんぐり、飢えて死んだ飼い牛の骨の髄…。どれも食べ物とは呼べない代物ばかり。しかしそれが村人達にできる精一杯のもてなしなのでした。
「ありがとうございます。皆さんの心遣いに感謝します」
旅人は、深々と村人達に頭を下げたのでした。
翌朝のことです。
「これは一宿一飯のお礼です」
旅人はそう言って、紫色のきれいな石を皆に見せました。
「これをあの山にお祭りさせてください。きっと皆さんのためになると思います」
旅人は山に向かって旅立ち、そして戻ってはきませんでした。
夜になりました。
ごろごろ…
ごろごろ……
遠くから、低くうなるような音が聞こえてきました。
そして、ピカッ! と、光ったかと思うと、ザー! と、音を立てて雨が降りはじめました。
真夜中であるにもかかわらず、村人達は表に出て、喜び、踊りあかしました。
その日以来、村には雨が降り、しかし降り過ぎることもなく、大きな嵐が来ることもありませんでした。
村は何年も何年も――今でも豊作が続いているのでした。