海水好きの山の畑神
〜かいすいずき の やま の はたけがみ〜
とある山奥に、とある土神様がのほほんと暮らして降りました。
海をみたことのない土神様は、海に憧れておりました。
ある日のことです。大嵐がやってきて、土神様の住む山に、びゅんびゅん大風が吹き荒れました。その風は、どうやら海からやって来たらしく、噂に聞く『潮』の風でした。山の草木が枯れたりするなか、土神様はそのほどよいしょっぱさをいたく気に入り、海水を飲みたくてたまらなくなりました。
それ以来、土神様は、いろんな獣の中から、海水を持ってきてくれそうな獣を探してまわりました。
どうやら、道具を使ったり作ったり、あちらこちらと移動したりしている『ヒト』という獣が良さそうです。
土神様は、『ヒト』の群が暮らす『村』にやってきました。そして、『村』の中の『畑』に障りを起こして、『ヒト』の食べ物の実りを悪くしました。そうして『ヒト』たちに言いました。
「儂は海水が飲みたいじゃ。持って参るじゃ。さすればこの土をようよう肥えさせるじゃ。」
海水を要求された人々は、それに応えて遠方から海水を運んできて差し出しました。
土神様は、上機嫌で海水を飲みます。その塩加減のなんと旨いことでしょう!
すっかり海水の味にぞっこんになった土神様は、再び『ヒト』の前に現われて言いました。
「これからは儂がぬしらの畑を守ってやるじゃ。その代わり、易のたびにに海水を持ってくるじゃ。嫌ならばずっと畑に障るじゃ。」
以後、その山から湧き出す水には、塩分が混じるようにとなったとかそうでないとか。。。
ともあれ、とある山奥のとある土神様は、『ヒト』の『村』の畑神になって、今でもものほほんと海水を飲んでいるそうです。