ある旅人の話 〜ある たびびと の はなし〜

 凍えるような風に雪が混じる夜、闇夜に道を失った旅人が、一人歩いていました。
 運悪く食糧は底をついており、夕刻までにたどりつけたはずの町は、どの方向にあるのかさえ分かりませんでした。
 行き倒れた旅人は、迷い込んだ荒野でに一本の枯れ木に出会いました。その木には大きなうろがあり、風と寒さをいくらかしのいでくれそうでした。
 すがる思いで旅人は、その中で一夜を過ごしました。

 寒々とした外とは裏腹に、うろの中は思いのほかあたたかく、旅人はとてもいい夢を見ました。
 あまりの心地よさに、自分はもう死んでしまったのではないかと錯覚したほどに…。

 翌朝、旅人が目覚めると、不思議なことに空腹が満たされていました。しもやけも治り、くじいていた足も痛くなく、体じゅうのどこもかしこもが良い調子でした。
 旅人はその日の内に、難なく次の町までたどりつけたという話です。















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