そこは、『グラスセリス』と呼ばれる世界。
世界には、お伽話が――寓話が、伝説が、伝承があふれ、人々は、妖精も神様も、魔法も異世界も、目に見えない様々なものを信じ、身近に感じて生きてる。
けれどそれは昔の話……。
もちろん、今でもそれらは世界中にあふれ、人々はそれらに親しみを感じている。
けれど、昔ほどではない。廃れ、忘れ去られていったものたちも、今や世界中に溢れているのだ。
そしてここには――
そんな風潮もどこ吹く風。今では知る人も少なくなったたくさんの挿話を、まるで我がことの様にか知りつくし、心酔し、語りつくせる少女がいた。あふれるほどの夢に囲まれて、平々凡々と育ってきた彼女の名は、アニエ・ブラウマ。
その彼女の前に、突然謎の三人が現われた。
やる気があるんだかないんだか、ひたすら無口で無愛想なリビウス。
快活で明るい、力自慢の姉御剣士レギー。
博識で頼れる紳士だが、そこはかとなく女口調のシュラエストル。
彼らは、アニエが数々のお伽話に詳しいことを知るやいなや、片っ端からそれを聞かせてくれと言う……。
理由なんて分からない。というか、教えてくれない。
とまどいながらもアニエは語る。彼女の知る数々の挿話を――。