ヒトツマエ   




目覚め。
暗闇の中で手を伸ばす。
上を目指して。光を目指して。
判る。そう、上はこっち。

足を下ろす。どこまでも深い闇へ。
おそるおそるのばして、踏ん張る。
だって、立たなくちゃ。

光を見つけた。
そのまま、上を目指す。
どこまでも、どこまでも。
空を、太陽を目指して腕を伸ばす。手を広げる。
倒れないように、うんと踏ん張る。

そして、笑う。
太陽を追いかけて、いっぱいに笑う。輝く。
知っているから、命は短いと。
うんと笑って、うんと輝いて、そうして命を宿す。

小さな命。たくさんの命。
これは私自身。
私自身であり、私の子ども達。
私自信であり、私の子ども達であり、知らない誰かを生かすための命。
その命のために私は散る。
力尽きて、萎れ、いつかは倒れる。
立てなくなる。
生きられなくなる。
でも、それでいい。

命は、繋がった・・・

いつかここで、いつかどこかで、あなたは目覚めて芽吹く。
私自身である、私の子ども。
いつかここで、いつかどこかで、あなたは誰かの命になる。
私の知らない血肉となって。

私はここにいる。
土に還る。
あなたが目覚めるための床になる。
誰かが生きるための宿になる。
ここで見ている。
数え切れない、幾千幾万の私の屍(かばね)と共に。
数え切れない、幾千幾万の私の未来たちを・・・


ill.016  070415  -hinata aoi-





ねえ どうしてボクらの道は繋がったんだろう?
こたえ タダの偶然

ふしぎ それだけなのに

薄い硝子の膜のように繊細で 二つとして同じ模様にならなくて

だからかけがえのない宝物
二つとない奇跡の宝石

キミとボクのビードロ模様
くるりとまわすと ココだけ同じ
そこがボクらの繋がった道
あとはぜんぶ違う道

重なった奇跡が奏でる音は心地よくて 目にも鮮やかで


いつかボクらの道がはなればなれになっても どうか

割れないで


ボクはいつまでも 二つの小さなビードロを並べて最期まで…


ill.015  061231





僕の進むこの道 強い心ひとつ
あればきっと進んで ゆけるはずだよ
誇れる力ひとつ この手にあるなら
迷わず進んで ゆけるはずだよ

だけど僕には 迷うばかりのこころ
誇れるかどうかも 分からない力だけ

だから僕には この道は進めない
貴方のように 力強くは

だから僕はゆくのさ 道草をしながら
いつかたどり着く 道の果てを夢見て
いつか零れ落ちて 進む道探しながら


ill.side-b-001  040205





月がまた来る
近づいてくると分かるの ココがちくんと痛いの

月がまた来る
狂気を持ってやってくる 壊れてくのが分かるの

どんなに抗っても 思考は狂い続ける
抗っただけ痛みが生まれ 壊れた回路から鮮血(ち)が噴き出す
何したって無駄なんだって ココはもう気付いてる

全て月に委ねて 支配されている間は逆らわないで生きる
それがきっと賢い選択…


月が去っていく
ココにぽつんと空虚(あな)を残して遠ざかっていく

月が去っていく
思考が晴れていく
月が去っていく
空虚(あな)から声がする
月がささやき哂う

――  マ  タ  ク  ル  ヨ  ――


ill.014  060203





小さなその木は立っていた
つぼみを一つ用意して 静かに春を待っていた

ある日ミツバチが通り過ぎた
彼はただ淡々と仕事をこなして飛んで行った

ミツバチはよく通り過ぎた
いつしかその木は ミツバチを目で追っていた
つぼみは膨らんでいた

小さなその木は話しかけた
ふと立ち止まっていたミツバチに そっと

快くミツバチは彼女に応えた
そしてまた淡々と仕事をこなすべく飛んで行った

ミツバチが立ち止まってくれるから
その木はいつも ミツバチに話しかけるようになった
つぼみは花開いていた


あるときミツバチは言った 「これから遠くへ行くんだ」と
そして二度と 通り過ぎることは無くなった

花はしおれていた...


また冬が来る 春が来る
新しいつぼみは硬いまま 一年(ひととせ)が――

北風の便りが吹いてきた
そして言った 「ミツバチはあそこにいるんだ」と
つぼみはまた花になる
そして実りを 南風に乗せてミツバチの元へ
その地で種は芽吹く


ill.013  060123





暗闇の溶けるころ 滲むのは紅(あか)
それを切り裂いて昇る 白光(ひかり)
闇は光に浸食されて行き場を失くしてゆく

海が空の色を映して 碧(あお)く深く輝き たゆたう
蒸気(みず)は白く浮かび 風の行くまま流れ漂う

傾く白光(ひかり)が放つのは朱(あか)
迫る闇を灼くように伸びて 空(あお)と交じる

強い白光(ひかり)の前に散る 遙か彼方で燃える灯(ひ)達
光が去り闇が全てを包みこんだ静寂の時間(とき)
遠い昔に放たれた輝き達が この場所で宝石(ひかり)になる


ill.012  050926





そこが出口だと云うことを 私は知っているの
けれど その出口をくぐる事がとても恐ろしいの

その先は只の道かもしれないけれど
うんと高い崖かもしれない
至上の贅を尽くした楽園かもしれないけれど
其処には誰も居ないかもしれない

貴方が待っているのなら 駆けて行く勇気が私にはある
けれど其処に 貴方が居てくれるとは限らない

混沌に立ち尽くす私は 私の醜さと愚かしさを嫌と云うほど見せられ続ける
其れでも私は その出口をくぐることがとても恐ろしいの

小さくても良い 幸せの確約を下さい
そうでなければどうか 早く私を壊して下さい



一体誰が その願いを聞き入れると云うのだろう?
一体誰が 娘の願いを叶えてくれると云うのだろう?
誰一人とて居る筈はなく――

――暗闇にとり残された屍(かばね)は
果たして娘であったのか
娘の『抜け殻』であったのか・・・


ill.011  050526


ヒトツマエ   

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